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2012年3月10日

高野登さんのお話/第3回文屋座セミナー

 

続きまして、高野登さんのお話からです。

 

戸隠山は、長野市街から少し北にあり、かつての戸隠村、今の長野市戸隠を常に見守ってくれている存在です。井内さんのお話に照らせば、あの山が「神様」なのでしょう。おそらく戸隠山を通じて、我々一人一人の思いがつながり、戸隠山から自分たちにその思いが伝わってきていたのではないかと感じています。

 

当時はまだ3世代同居が多く、どこの家に遊びに行っても、元気なおじいちゃんがデンと座っていました。おじいちゃんから「タバコ盆を持ってきてくれ」と言われて、タバコ盆だけ持っていくと、「灰皿とマッチがなかったらどうするんだ」と一喝され、子どもながらに「なるほど」と学びます。次に他の家で「タバコ盆を持ってこい」と言われると、タバコ盆の上にキセルと刻みタバコと、灰皿とマッチをきちんと揃えて持っていきます。すると「気が利くな。大したもんだ」と褒められます。大人たちはそうやって、子どもたちの中に「当たり前の基準」を作ってくれました。

 

バスでお年寄りや体の悪い人、妊婦さんに席を譲るのも当たり前でした。大人がそうしているのを見て、子どもも自然に「当たり前」を身につけていきました。

 

「これが正しい」「これは間違い」と言う代わりに、最後はお天道様や戸隠山に照らし合わせて、何をするのが当たり前なのか。当たり前の人間として、当たり前の「戸隠見地」として何をしなければならないのか。地域社会の考え方がそれを教えてくれていた時代が、ずっと続いていました。

 

今、注目されている「江戸しぐさ」の中に、「大人のしぐさ」というものがあります。「どれだけ人を笑わせたか」「どれだけ人を立てたか」「どれだけ人を育てたか」「どれだけ人に伝承してきたか」。たった4つのセンテンスで、江戸の人たちが大人のあるべき姿を伝えてくれているのです。

 

最近の地下鉄の座席は、お尻の形に合わせて少しだけ凹んでいます。すると、足を大きく広げたり、荷物を置いたりする人も、さすがに譲らざるを得なくなりますから、本来は優しい気持ちからできている座席の形です。でも、優しさから作ったはずの仕組みが、「もう一人座れるように拳1個ずつ詰めようね」と融通する人間本来の優しさを壊してしまっているのかもしれません。これが「仕組みを作る」ことの二面性です。一方的な目線によって仕組みを作ったがために、思いもよらない負担を利用者に強いてしまっていることが、実は結構あるのです。

 

リッツカールトンでの仕事を20年近くやってきて、一番の軸にしてきたことは、「サービスマンとして存在感を最大に出し、同時にサービスのプロとしての気配を消す」ということです。

 

たとえば6人で会食をしていて、最初に6人が別々のメニューをオーダーします。その後、話をしているうちに、自分のオーダーしたものが、まったく気づかないうちに自分の前に置かれて、それをいただきながら話をして、終わった頃にまた気づかないうちに食器が下げられていて、いつの間にか食後の飲み物も、オーダーした人のもとへスッと届いている。ふと周囲を見ると、スタッフたちがきちんとした姿勢で堂々と仕事をしている。存在感はあるのに、いつの間に来たのか気づかないくらい、気配がない。

 

これは、「どうしたら快適に過ごしてもらえるか」を考えながら仕事をしている時の形の表れではないでしょうか。このように、「ぶれない仕事の仕方」を考えるきっかけをあらゆる場面で作っていくのです。

 

「ホスピタリティ」は日本語にすると「おもてなし」、動詞にすると「もてなす」です。聖徳太子の「和を以て尊しと為す」になぞらえて、「何を以て何を為すか」。そもそも自分の立ち位置とは何か、自分は何を以て何を為すために存在しているのか、という原点に戻っていけば、ほとんどの物事は解決するでしょう。

 

日本人本来の立ち位置・原点として「もてなし」を考えるなら、「ふるまい」「しつらい」「よそおい」の3つに集約されていきます。どんなふるまいで、しつらいでいなければならないか。どんなよそおいを相手に伝えなければいけないか。そう考えていくと、物事は非常にシンプルになります。そのことを意識させてくれる人や概念的なもの、戸隠山のような存在があることが、大切なのでしょう。

 

高野さんのお話に惹き込まれ、場内がだんだんとヒートアップしていきます。

 

 

 

高野登さんの名著『サービスを超える瞬間』と『絆が生まれる瞬間』。

 

高野さんは、望月智行先生のご著書『いのち輝くホスピタリティ』の鼎談「笑顔のひみつ」にご登場いただいているほか、井内さんの『わたし、少しだけ神さまとお話しできるんです。』の帯に推薦文をお寄せくださっています。

 

(写真撮影:花井裕一郎さん)

 

 

 

 

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